住栄ジャーナル

JUEI JOURNAL

  • 2024.04.26

事故物件の告知義務があるのはどんなとき?告知期間や内容、注意点などを解説

事故物件を売買する際、あるいは賃貸する場合に告知義務が発生します。

これまでは不動産会社によってどこまで告知するのかに違いがありましたが、後に買主とトラブルに発展するケースもあったため、国土交通省が事故物件の告知義務に関するガイドラインを策定しました。

この記事では、事故物件の告知義務がある事案や告知期間について、また告知内容や注意点などを解説します!

事故物件の告知義務に関するガイドライン策定の背景

2021年10月に国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を発表しました。

これまで、人の死に関わる告知は不動産会社によって対応が違いました。そのため、すべて告知している不動産会社もあり、告知に関する負担は大きかったと言えます。

一方で告知していなかった不動産会社では、買主が後で知ってトラブルに発展したケースもあります。

こうした背景から、未然にトラブルを防ぐために、国土交通省が事故物件の告知義務に関する判断基準の位置づけを改正し、ガイドラインで示したのです。

ガイドラインでは借主や買主の判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事案に対して、告知義務が発生すると記載されています。

事故物件の告知義務がある事案

事故物件の告知義務がある事案は、主に以下の4つに分かれます。

1.自殺・他殺・事故による死亡である場合
2.特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合
3.買主・借主に問われた場合
4.買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると判断した場合

それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

1.自殺・他殺・事故による死亡である場合

自殺や他殺、事故による死亡は事故物件の告知義務があります。これらは借主や買主との取引に重大な影響を及ぼすと考えられるからです。

また、ガイドラインでは死因が不明な場合も、借主や買主との取引に影響を及ぼすと考えられる場合には、告知義務に含まれると記されています。

2.特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合

特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合も、告知義務がある事案に該当します。

自然死だとしても長期間放置されて、特殊清掃が必要になった場合は告知義務があります。

血液や体液がついた壁や床などの汚れは、特殊な清掃でないと落ちないためです。自殺や他殺、孤独死などでは特殊清掃や大規模なリフォームが行われる場合が多いでしょう。

これらは、買主や借主との取引に重大な影響を与えると考えられるため、告知が義務付けられています。

3.買主・借主に問われた場合

買主や借主に人の死に関することを問われた際には、調査の上、告知する義務があります。これは死因や期間に関係なく、告知しなければなりません。

買主や借主にとって取引をする上で重大な影響があるものと判断されるためです。

ただし、調査時に売主・貸主・管理業者から死因が不明であると回答された場合や、無回答の場合はそのことを告知すればいいとされています。

買主や借主から事案に関することを問われた場合には、正確に告知する義務があるということです。

4.買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると判断した場合

社会的影響の大きさから、買主や借主が把握しておくべき特段の事情があると判断した場合は、告知義務があります。

例えばニュース報道で全国的に知られた事故や事案などが該当します。これらは住み心地の良さを欠く心理的な抵抗が大きく、買主や借主との取引の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるためです。

事故物件の告知義務がない事案

事故物件の告知義務がある事案を見てきましたが、反対に告知義務がない事案もあります。

告知義務がない事案は、主に以下のような場合です。

・老衰や持病による病死(自然死)である場合
・不慮の事故による死である場合
・集合住宅の共用部分で死が発生した場合

それぞれ詳しく見ていきましょう。

老衰や持病による病死(自然死)である場合

老衰、持病による病死などは告知義務がありません。これらの死はいわゆる自然死に当たるからです。居住用不動産で自然死が発生する可能性は、十分予想されます。

実際に自宅における死因割合では、老衰や病死による死亡が多くを占めています。不動産の取引においても買主や借主の判断に影響を及ぼす可能性は低いとされており、告知義務がないのです。

不慮の事故による死である場合

事故死に該当するものでも、不慮の事故は原則として告知義務がないとされています。不慮の事故とは、自宅の階段からの転落や転倒死、入浴中の溺死、食事中に食べ物が詰まったなどです。

日常生活の中で発生の可能性が十分にある不慮の事故は、買主や借主の取引判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。

そのため自然死と同じく、告知しなくても良いというのが対象外である理由です。ただし、不慮の事故によって人が死亡したのに発見が遅れてしまった場合、例外となるケースもあります。

例えば、長期間遺体が放置されたことによる悪臭や害虫の発生で、特殊清掃などが行われた場合です。

この場合は、買主や借主との取引に重大な影響を与えると考えられるため、告知義務の対象となります。

集合住宅の共用部分で死が発生した場合

告知義務のある自殺や他殺、事故などが起きた場合や特殊清掃が必要となった場合でも、集合住宅の共用部分で発生した場合は告知義務がないとされる場合があります。

共用部分でも買主や借主が日常生活において通常使用しない場所、例えば、設備室など普段入る機会もない部分などがそれに当たります。

一方、日常生活で使用する共用部分に関しては住み心地の良さに影響するため、告知義務があります。例えば、ベランダやバルコニー、共用の玄関、エレベーター、廊下、階段などです。

なお、マンションやアパート内の一室で人の死に関する事案が起きた場合、告知義務があるのは発生した部屋のみになります。

しかし事件性や周知性、社会に与えた影響が高い場合は告知義務が発生するとされています。

事故物件の告知義務が必要な期間

事故物件の告知義務が必要な期間は、賃貸の場合と売買契約の場合で異なります。それぞれ告知義務が必要な期間について、確認していきましょう。

賃貸の場合は死が発覚して概ね3年を経過するまで

国土交通省のガイドラインによると、賃貸の場合の告知義務の期間は、死が発覚して概ね3年を経過するまでとされています。

しかし、事件性や周知性、社会に与えた影響等が大きい事案は3年の期間を超えても告知義務があると覚えておきましょう。

具体的には、ニュースになるほどの大きな事件があった不動産、隣人の記憶に深く残るほどの事件が起きた場合などが挙げられます。

売買契約の場合は3年を経過しても告知義務がある

不動産の売買契約の場合は期間制限がなく、告知義務期間の3年を経過しても告知する必要があります。売買契約の場合は契約金が大きく、告知をしなかったときの経済的トラブルの負担が大きいためです。

また、告知の際には契約時に売主と買主との間で「言った」「聞いてない」の口論になるのを防ぐため、口頭だけでなく書面でも伝える必要があります。

契約時に告知書面に押印するなどして、記録を残しておくことでトラブルを防げるでしょう。

事故物件で告知義務がある瑕疵4つ

事故物件で告知義務がある瑕疵は以下の4つがあります。

1.心理的瑕疵
2.環境的瑕疵
3.物理的瑕疵
4.法律的瑕疵

「瑕疵」とは、土地や建物に何らかの欠陥や問題があることを指します。取引される土地や建物に瑕疵がある場合、借主や買主の権利保護のために告知義務として瑕疵の内容を説明しなければなりません。

ここでは4つの瑕疵について、詳しく解説していきます。

1.心理的瑕疵

心理的瑕疵とは、心理的抵抗が生まれる問題点のことです。具体的には、前述した自殺・他殺・事故など人の死に関わるものなどが該当します。

また、恐怖感や嫌悪感を感じる孤独死や忌まわしい事件・事故なども心理的瑕疵にあたります。

物件そのものに欠陥があるわけではないものの、心理的に抵抗感が生まれる可能性がある場合には、買主に告知しなければなりません。

心理的瑕疵は目に見えず「気になる」「気にならない」の基準に個人差があるでしょう。

しかし買主に告知なしで販売した場合、大きなトラブルに発展する可能性が高いと言えます。

2.環境的瑕疵

環境的瑕疵とは物件の周辺環境にある問題のことです。取引の対象となる物件自体に問題はないものの、近隣の建物などから不快要素が生じるなど、物件の周辺環境に問題がある場合を指します。

具体的には、騒音や異臭が出る建物がある、交通量が多く車の排気ガスがひどい、近隣にごみ処理場や下水処理場がある、反社会勢力の拠点があるなどがあげられます。

また、パチンコ店などの遊戯施設があり、治安の問題が発生するなども環境的瑕疵のひとつです。

人によっては保育園や学校からの音が不快に感じることもあるでしょう。

このような生活の品質や快適さに関わる周辺環境の問題は、環境的瑕疵として告知や説明が必要です。

3.物理的瑕疵

物理的瑕疵とは、不動産の欠損や損壊など生活に支障をきたすレベルの問題のことです。具体的には地盤沈下や雨漏り、シロアリ、ひび割れなどがあげられます。

これらの問題は将来的に身体の危険性や費用負担が発生する可能性が高いため、事前に告知しなければならない義務があります。

例えば地盤沈下しやすい地域の場合、建物の安定性や耐震性に影響し、将来的に家が傾いたり倒壊したりする恐れも出てくるでしょう。

賃貸の場合は、基本的に貸主が修繕義務の責任を負うよう定められていますが、特例で修繕の負担を負わなくていい契約内容になっている場合もあります。

物理的瑕疵のある物件を取引する際には、契約内容の確認が必須です。

4.法律的瑕疵

法的瑕疵とは、法的な制限や問題がある物件を指します。具体的には都市計画法や建築基準法で、使用や建築に制限がある物件などです。

また、建築基準法に違反している、接道義務に違反している、防災設備の不備があるといった建物も含まれます。

例えば、建物の建築で制限がある場合、古くなった家の建て替えができないといった問題が生じてきます。

法律の問題は、専門の知識がない限りなかなか気づけないことです。購入前に告知しておかないとトラブルに発展しかねないため、買主に情報を提供する義務があります。

事故物件の告知義務に違反した場合起こる4つのトラブル

事故物件の告知義務があるにも関わらず買主に告知しなかった場合、買主から以下の請求を受ける可能性があります。請求の種類は、主に4つです。

1.補償請求
2.減額請求
3.契約解除
4.損害賠償請求

それぞれの請求について、詳しく解説していきます。

1.補償請求

補償請求とは物理的瑕疵で欠陥があった場合に、売主が買主から補修請求されることです。物件を引き渡した後でも、生活や健康に支障のある欠陥や損壊の場合は、買主から費用を請求される可能性があります。

例えば住み始めた直後に雨漏りが発生した場合、買主は売主に対して修繕費用に加え、修繕期間中の滞在場所の提供を要求するケースも考えられるでしょう。

2.減額請求

補修請求があったにも関わらず、それに応じない場合や修繕できるレベルでない場合に、不動産購入額の減額を請求される可能性があります。

補修請求された金額が支払えなかったり、修繕が不可能であったりするケースがあげられます。

このような場合、物理的瑕疵があると知っていたら売買契約を結んでいなかったという契約時点とのずれが生じてくるためです。

また、物理的瑕疵の告知を受けていたら契約価格での購入はしていなかったということも、大いに考えられるでしょう。

3.契約解除

売主が補償請求や減額請求に応じなかった場合、不動産売買に関する契約を解除される可能性があります。

また、心理的瑕疵で心理的苦痛を受けた場合などには、慰謝料を請求されるケースもあるとされています。

このように、契約解除だけでなく損害賠償を請求される場合もあります。

さらに、不動産会社も売買に携わっていた場合、不動産会社の責任も問われます。告知義務違反は売主だけでなく、売買に関わる不動産会社も該当するためです。

買主に告知がされていなかった場合、売主に合わせて不動産会社も損害賠償を請求される可能性が出てきます。

4.損害賠償請求

事故物件の告知義務があったにも関わらず、買主に告知していなかった場合、契約までに負担した費用が損害賠償として請求されます。

具体的には登記費用、印紙代、引越し費用などです。不動産の売買契約までにかかった費用を、買主が売主に請求できるというものです。

事故物件で告知の必要がある内容

事故物件の告知はどこまで説明が必要なのか気になるところです。事故物件で告知が必要とされている内容は、以下の4つになります。

・発生した時期や場所
・死因
・特殊清掃の実施の有無
・情報開示の真実

それぞれの内容について、詳しく解説します。

発生した時期や場所

事故や事件がいつどこで起きたのか、発生した時期や発生場所は、明確に告知する必要があります。

また、自然死であっても孤独死などで発見が遅れ、特殊清掃が必要になった場合には、告知案件に該当します。

その場合も、発見した時期や特殊清掃を行った場所などを明確に伝えなければなりません。

死因

不慮の事故による死因以外の場合は、死因について告知する必要があります。自殺、他殺、事故死なのかどうかも伝えるべき事項です。

ただし、自宅の階段からの転倒や入浴中の溺死、食べ物が喉に詰まるなど日常生活で起こり得る不慮の事故による死因は、自然死に含まれるため、告知の必要はありません。

特殊清掃の実施の有無

特殊清掃された場合は清掃が行われた理由や実施された時期、清掃箇所について詳しく告知する必要があります。

特殊清掃が入るほどの事案は心理的瑕疵にも影響するため、事前に買主に伝えなければなりません。

大規模なリフォームが行われた場合も同様で、リフォーム時期や場所についても告知すべきです。

情報開示の真実

人の死に関することを調査しても、情報が開示されなかった場合は事実を告知します。

例えば、売主や不動産のオーナーに死因の調査をしたときに不明と回答された場合や、無回答の場合はありのままを告知すればいいとされています。

業務上、知り得た情報のみ告知義務があるというのが理由です。

事故物件の告知義務についての注意点

事故物件の告知義務についての注意点は2つあります。

・一度入居しても告知義務は無くならない
・故人や遺族のプライバシーに配慮する

2つの注意点を確認していきましょう。

一度入居しても告知義務は無くならない

賃貸の場合、一度入居があったとしても、告知義務の3年を経過していなければ告知義務が無くなることはありません。

賃貸では事案発生から3年以内の場合は、何度か入居者の入れ替えがあっても告知義務があると覚えておきましょう。

また、賃貸の場合でも社会的な影響を与える事案は、3年を経過した後も心理的瑕疵が大きいとされ、告知義務は残ります。

加えて売買契約の場合は、3年を経過した後も告知義務は原則です。

故人や遺族のプライバシーに配慮する

告知する際は、事案に関係する故人や遺族のプライバシー、名誉に十分配慮する必要があります。

具体的には氏名や年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況などを詳しく告知する必要はないとされています。たとえ知っていたとしても、取引相手に伝えてはいけません。

情報を漏らしたことが遺族の耳に入り、トラブルに発展するケースもあるため、十分に注意しましょう。

事故物件の告知義務は売買契約上のトラブルを防ぐ施策

事故物件の告知義務は、賃貸の場合は事案が発生してから概ね3年、売買契約の場合は3年を経過した後も期限はなく告知義務が残ります。

自殺や他殺、事故による死亡や特殊清掃が行われた事案に関しては、必ず告知しなければなりません。取引される物件に瑕疵がある場合にも、買主への告知が必要です。

告知義務に違反した場合、買主から売主への補修請求や減額請求、契約解除などのトラブルが生じる可能性が高くなります。

不動産の売買契約上のトラブルを防ぐ施策として、事故物件の告知義務に関する知識を頭に入れておきましょう。

監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。